文化人類学は、世界の多様な社会と文化、思想をフィールドワークと民族誌、資史料にもとづいて精緻に理解するとともに、人類史的な比較の視点から、人間の本質の解明をめざす学問です。
 その対象となる領域はじつに幅広く、地域的には世界のあらゆる地域を、時代的には過去から現在に至るあらゆる時代をカバーしていますが、当研究室では日本の文化と思想に関する研究も重視しています。方法論的にも、いわゆる現地調査が基軸になることはいうまでもありませんが、思想研究の場合は文献による調査研究が重要です。

 異文化や過去の社会では、現在の私たちが常識と考えていることが必ずしも常識ではない場合が少なくありません。一方、人間はどこでも、いつでも、やはり同じなのだと感じることもあるでしょう。まず、異文化や過去の世界に旅し、それらをじっくり見つめてみましょう。人類の思考、社会のあり方、法律、道徳、経済、宗教、芸術などには何らかの普遍性があるのでしょうか。それとも、それらは地域や民族ごとに別個のものとして理解すべきなのでしょうか。百聞は一見に如かず、具体的なフィールドワークや文献調査をとおして、これらの問題を考えてみましょう。すると、最初は奇異にみえた習慣や行動が、その社会ではそれなりの必然性をもつことがわかってきます。逆に、現在の私たちが当たり前と思っていたことが、これまでとは違ったかたちで見えてくるかもしれません。
 このように、異文化と自文化を行き来し、空間と時間を超えて、「人類」という大きなスケールで、ヒトとは何か、社会とは何か、文化とは何か、そして人間は何をどのように思考してきたのか、といった問題を考えることを、私たちは人類学的思考と呼びます。それは、自分が暮らす社会、そして世界の情勢を洞察するうえで有用な視点をもたらしてくれるでしょう。

 その思考の出発点となる題材は、私たちの身の回りにあふれています。衣食住、結婚と家族・親族、社会構造、お祭りや地域の伝統文化、神話、芸能、コミュニケーションといった研究テーマは比較的なじみのあるものですが、新しい研究テーマは次々と増えています。私たちが直面している社会問題や環境問題などもそのひとつです。文化人類学は、人文学の中でもっとも幅が広く、もっとも奥行きのある学問分野です。異なる文化、社会、思想への関心はもちろん、幅広い知的好奇心をお持ちの皆さんを私たちは歓迎します。